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「第九を聴く」15 ドイツ正統派の指揮者たち カイルベルト
ヨゼフ・カイルベルト(1908〜1968)
ドイツのカールスルーエ生まれで、17才でカールスルーエ国立歌劇場の練習指揮者として出発、後にバーデン国立歌劇場の音楽監督の後に、第二時大戦後はドレスデン国立歌劇場を立て直し、ベルリンやバイエルンの主要な歌劇場の音楽監督を歴任し、1968年バイエルンで「トリスタンとイゾルデ」の上演中に劇的な最後を遂げました。
同年同月生まれのスマートなカラヤンに比べて、カイルベルトは素朴で頑固な全く対照的な芸風の持ち主。特にドイツ物では無類の強みを見せ、度々来日しN響の指揮台に立ち、ベートーヴェンやブラームス、ブルックナーに伝説的な名演の数々を残しています。
第九はN響との1965年末のライヴ録音が残されていて、第4楽章の後半は映像も残されています。

NHK交響楽団、東京放送合唱団、国立音大合唱団、
S:伊藤京子、A:栗本尊子、T:森敏孝、Br:大橋国一  
   (1965年12月25日、東京文化会館での演奏会録音 )

これは聴き応えのある名演でした。N響がまるでドイツの一流オケのような重厚な響きを聴かせます。第1楽章は早いテンポながらがっちりとした重量感のある安定した演奏で、この正直な音楽造りには言い知れぬ安心感があります。第2楽章はちょっと素朴すぎるかな、とも思いますが、第3楽章は、カイルベルトの遅いじっくりとしたテンポにオケが終始緊張感を崩さず、美しい余韻のある響きを聴かせています。
第4楽章も風格のある名演、映像を見るとカイルベルトの指揮は冷静で、実に淡々としているのに、演奏者たち側の熱い真剣な表情には、心打たれるものがあります。
独唱者ではバリトンの大橋の張りのある声が印象的でした。
映像を見ると木管は完全に倍管、合唱もかなりの大編成で、楽譜の改変はワインガルトナー盤とほぼ同じで、歓喜の主題の導入部分で、チェロに第2ファゴットを重ねていました。
(2001.10.16)
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