back top next
「第九を聴く」45 日本の指揮者3・・・渡辺暁雄
「渡辺暁雄(1919〜1990)」
日本人を父に、フィンランド人を母に東京に生まれる。日本フィル、京都市響、東京都響、広島響の音楽監督を歴任。特に日本フィルとは創設時から音楽監督を務め、LP初期には外盤で多くの現代音楽の録音も残していて、LP期には日本フィルは、海外で最も知られた日本のオーケストラでした。またシベリウスのスペシャリストとしても名高く、ステレオによる世界初の交響曲全集を含め、日本フィルを振って2種の交響曲全集を残しています。沼津でもN響を振り、シベリウスの交響曲第2番の名演を聴かせてくれました。
第九の録音は、残念ながら4楽章のみ1種類しかありません。

・日本フィルハーモニー交響楽団、日本フィル合唱団
S)斎藤江美子     A)戸田敏子
T)森敏孝       Br)川村英司
(1966年ころ 東京文化会館  スタジオ録音 第4楽章のみ)
小学館から出ていた子供向けの作曲家紹介シリーズ「世界の音楽」の附録だったソノシート。残念ながら第4楽章のみで、始めのオーケストラのみによる序奏部分はカットされています。ソノシートながら若林俊介氏と菅野沖彦氏による名録音で立派なステレオ録音です。
美しくスタイリッシュな渡辺暁雄の芸風が良く出ている気品のある第九。遅いマーチ部分が緊張感に欠け、オケのみになると急に早くなるといった不自然さは感じますが、
300人の合唱が見事にコントロールされ、これはなかなか雄大な出来です。
特に二重フーガでは、各声部を明確に浮き立たせて立体感のある素晴らしさを演出しています。
驚いたのはこの二重フーガ後半部分で、720小節目のティンパニにトレモロを叩かせ、その後はティンパニに合唱のバスパートと同じ旋律を演奏させています。
これはフルトヴェングラーの有名な51年バイロイト盤でも部分的に行っているのですが、この渡辺盤ではより徹底させ、二重フーガの終わりまで演奏させていました。
他にはマーチの後、歓喜の歌が再現する直前にもティンパニの大きなクレッシェンドを加筆していました。以上なかなか興味深い解釈が見られるので全曲録音が残されていないのが実に残念だと思います。
(2003.12.13)
back top next