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「第九を聴く」46 とりあえずの中〆
北原先生の指揮で沼響が初めて第九に挑戦してから丸2年。まさかこんなに早く再び第九を演奏する事になるとは思いませんでした。
おかげで中断状態になっていた「第九を聴く」を再開することができたのですが、第九は聴く側にもかなりの緊張を強いる大曲でして、結局充分な紹介まで至らぬまま今回も演奏会が終わってしまいました。

今まで発売された演奏が350種を超え、日々新たな録音が増えている状況下で完璧を期すのはとても不可能ですが2年越しで紹介できた演奏が90種ちょっと、まだまだ4分の一です。ただ私は第九のコンプリートコレクションを目指しているわけではありませんので、このくらいが限界かなとも思ってしまいます。

今回も視聴そのものは終わっているのに、重要な演奏のいくつかは紹介できずに終わってしまいました。チェリビダッケ、ジョルジュスクやマタチッチ、スイトナー、ジュリーニなどの比較的最近まで活躍していた指揮者たちや、現役の巨匠級のマゼール、メータ、ムーティ。始めたばかりの日本人指揮者の演奏も紹介できたのは故人ばかり、現役は高関健のみで小澤征爾や岩城宏之、小林研一郎といった演奏も紹介できぬままとなってしまいました。
とはいえ演奏会も終わってしまいましたので、中〆という形で、今まで聞いた中で印象に残っている演奏を紹介します。


結局オーケストラ・合唱・ソリスト、それに録音を含めて、全てがバランス良く完璧な、私にとって理想とする演奏というものはありませんでした。
演奏だけをとれば、

・フルトヴェングラー:バイロイト祝祭管
・トスカニーニ&NBC響
・フリッツ・ブッシュ&デンマーク王立管(1934年)
・シューリヒト&パリ音楽院管
これら往年の大指揮者たちの4つ録音が圧倒的でした。
この中では、無の状態から曲が生まれつつある瞬間を聞き手に体験させてくれる点で、
フルトヴェングラーの演奏が稀有の名演奏でした。独唱者や合唱の素晴らしさを考えれば、これを超える演奏は、おそらく出てこないと思います。

録音を含めた全ての総合力では、
・バーンスタイン&ウィーンフィル
・スイトナー&ベルリン国立歌劇場管 (未紹介)の2種。

次点として
・ベーム&ベルリン・ドイツオペラ管の来日ライヴ。
これは、オケがもう少し良ければベストに入った程の演奏、
特にドイツの深い伝統を感じさせる重厚な合唱と独唱は素晴らしかった。

ドイツ的な重厚さと格調の高さでは、
・イッセルシュテット&北ドイツ放送響のライヴ。

オーケストラの凄さでは
・セル&クリーヴランド管
・カラヤン&ベルリンフィル(1976年)
合唱を聴くならば、先に上げたベーム&ベルリン・ドイツオペラ管と
・アバド&ベルリンフィルのスウェーデン放送合唱団。

他に忘れがたい演奏としては朝比奈&新日本フィルの映像。
私は朝比奈隆の熱心な聞き手とは言えませんが、日本人の第九としては私が聴いた中ではベスト。日本人指揮者による第九の中でも、最高の演奏の一つ。

今回心残りなのは、古楽器系の演奏を紹介できなかったことです。
ジョナサン・デルマールのベーレンライター新版が出版されてから、現代の演奏は
ベーレンライター版を無視して語ることができなくなりました。
モダン楽器による演奏でも、ラトルのように古楽器の奏法を取り入れた名演も生まれつつあります。その一方でバレンボイムのように従来のブライトコップフ版を使用する指揮者もいます。
ベートーヴェンの自筆譜の研究が進むにつれて、ベートーヴェンの楽譜の速度記号を忠実に再現して演奏したという史上最速のサンダーや、「古典派時代の指揮法はタクトの一往復をもって一拍と定義していた」とする「テンポ・ジュスト」という学説に基づいた超スローで演奏時間2時間近くのコブラのような異形の演奏までも登場してきました。

今回連載を再開するにあたって、ガーディナーやノリントン(2種)、ブリュッヘン、インマゼールなど、さまざまな古楽器の演奏も聴いてみましたが、聴けば聴くほどベートーヴェンの深みに嵌ってしまい、結局自分の勉強不足のためコメントするまでに至りませんでした。
これらは再度機会を見つけて是非紹介したいと思っています。
(2003.12.15)
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