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「展覧会の絵」を聴く5・・・・ピアノ演奏聴き比べ2
原曲ピアノ版の演奏比較第2回め。今回は代表的な「原典版」の演奏を紹介します。

<スヴィアストラフ・リヒテル(1915〜1997)>
強靭な打鍵から生まれる深い響き、研ぎ澄まされた叙情、20世紀を代表するロシアの
巨人リヒテルの「展覧会の絵」は、リヒテルの芸風にぴったりの曲で、録音も何種類かあります。今回は以下の3種を聴きました。すべてモノラル。
1956年プラハのライヴ、1958年ソフィアでのライヴ、1958年スタジオ録音。
完成度の高さと録音の良さでは1958年のスタジオ録音が1番ですが、傑出しているのはソフィアでのライヴです。前半はかなり派手なミスタッチの連続ですが、早いテンポで猛烈に突き進む壮絶な演奏。特に後半は灼熱の名演で、「ババヤーガの小屋」から「キエフの大門」にかけては、とても落ち着いて聴いていられないほどの迫力です。この演奏を超えるものは今のところありません。プラハのライヴは、どちらかといえばスタジオ録音とほぼ同じアプローチですが、スタジオ録音ほどの完成度とソフィア盤ほどの熱気もなく、中途半端な印象でいまひとつでした。

<アルフレッド・ブレンデル(1931〜)>
ウィーンを中心に活躍していたブレンデルがチェコのモラヴィア出身と知り、意外な気がします。若い頃の録音は技巧の確か差を見せながらも、幾分生真面目さが漂っていましたが、年を経るにつれて、次第に深みとこくを増した熟成した演奏を聴かせるようになりました。ブレンデルの「展覧会の絵」は2種のスタジオ録音があり、特に若い頃の録音は
コルサコフ版を使用しているようです。今回は1985年、ウィーン芸術週間でのライヴ録音を聴いてみました。熟成したロマンティシズムの漂う楷書風の演奏。聴いて何かほっとする温かみの感じられる飽きのこない演奏です。そのことがこの曲想に合っているかといえば、また別問題ですが。

<ウラディミール・アシュケナージ(1937〜)>
ロシア生まれのアユケナージは、「展覧会の絵」はピアノ演奏で3種類、オーケストラを振って、フンテク版と自らが編曲したアシュケナージ版の2種類のオケ版正規録音を残しています。この曲に対してかなりのこだわりを持っていると思います。そのこだわりとは、ロシア人としての、ラヴェルのあまりにもラテン的なカラーに染まった編曲へのアンチテーゼだと思います。特に2種のオケ編の演奏では、スラヴ的な一種の粘りを持った響きを特に強調していました。ただしピアノ演奏は、美しいタッチがスラヴ的な要素を自ら消してしまっているかのように思えます。演奏は、超絶的な技巧に裏打ちされた何も欠点のないウルトラ美人的美演です。録音も良く、この曲の演奏を1枚だけ欲しいという人にお勧め。
(2002.01.19)
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