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「展覧会の絵」を聴く6・・・カペル、ウゴルスキ、小川典子
原曲ピアノ版の演奏比較最終回。今回は印象に残った3つの演奏を紹介します。

<ウイリアム・カペル(1922〜1953)>
飛行機事故により若くして不慮の最期をとげたアメリカのピアニスト。もし存命ならば、
ポリーニやアシュケナージらと同列に評価されたであろう才能の持ち主でした。
カペルは「展覧会の絵」をしばしば演奏会でとりあげ、1951年と1953年の2回、
合わせて3つの演奏会録音を残しています。
今回は、この中のフリッツコレクションの1953年ライヴと、同じ1953年のオーストラリアツアー中での演奏会ライヴ録音を聴いてみました。
このオーストラリアツアーの帰途、カペルの乗った旅客機はサンフランシスコ郊外の山中に激突してしまいました。オーストラリアでのライヴは、残念ながら録音状態が悪く、一部欠落もありますが欠落部分は1951年の録音で補われています。
この演奏はワイルドと並んで「サミエルゴールデンベルクとシュミイレ」の終結部がドレドシで終わる演奏です。ただし「ヴィドロ」開始部分はフォルテ。
「ババヤーガの小屋」の冒頭主題が再現する部分で音を崩したり、多くの箇所で音を加えたりといった、持ち前の華やかなテクニックで効果的を狙った演奏ですが、随所に才能の閃きを見せている優れた演奏です。
特に「ヴィドロ」の土を踏み固めるような強烈なフォルテシモとプロムナード各曲における神経の行き届いた描き分けの見事さには驚きました。最近発売された同じく1953年フリッツコレクションでのライヴもほぼ同様の解釈ですが、こちらは録音状態も良く、カペルの力強いタッチが楽しめる名盤です。

<アルトゥール・ウゴルスキ(1942年〜)>
少年時代から特異な才能を認められていながらも、ソビエト政府から公的な演奏を禁じられ、地方巡りをしていた不遇のロシアのピアニスト。旧東ドイツ亡命後、女流作家ディーチェの援助を得て、50才にして西側にデビュー、一躍注目を浴びました。
「展覧会の絵」はCDも出していますが、今回は来日公演のビデオを聴いてみました。
特異な風貌長い指、独特の気配の漂うピアニストです。きわめて遅いテンポ、弱音ではじまるプロムナードなど、弱音に細心の注意を払ったユニークな演奏でした。
ロシア的というよりも印象派風の「展覧会の絵」。譜面の強弱の指示に囚われない独特の境地の不思議な演奏です。

<小川典子>
小川典子は、ムソルグスキーの自筆譜を使用。これは原典版とさほど大きな差異はないものの「卵の殻をかぶった、ひよこの踊り」の低音部の動きや、「ババヤーガの小屋」などに多少の音の異動があるようです。
演奏は確かな技巧で安定したもの。細部の描き分けがじつに細やかで、特に左手の低音部分の雄弁さが大きな効果を上げています。男性的な力強さにも欠けてなく、
この曲スタンダードと言って良い演奏だと思います。特に「キエフの大門」における、クリアな低音部分の動きと澄みきった鐘の音を思わせる高音部分の対比が実に印象的でした。
また、このCDには、「ボリス・ゴドノフ」「ホヴァンシチナ」といったムソルグスキー
の代表的なオペラから、作曲者自身の作曲時のピアノスケッチが数曲収録されていますが、
いずれも素晴らしい演奏で、曲も単独のピアノ曲としても充分存在価値が主張できるほどの内容を持っていました。
(2002.01.31)
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