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「悲愴」を聴く36・・・イタリアの指揮者たち2・・・アバド、シノーポリとムーティ
「クラウディオ・アバド(1933〜)」
ミラノ生まれ、父と兄も有名な音楽家。スワロフスキーに指揮を師事。スカラ座、ウィーン国立歌劇場、ロンドン交響楽団の音楽監督を経て、カラヤンの後任として1990年〜2002年までベルリンフィルの芸術監督。
アバドには以下の二つの「悲愴」があります。
  ウィーンフィル   1973年
  シカゴ交響楽団   1986年

・シカゴ交響楽団
(1986年 11月10日 シカゴ オーケストラホール スタジオ録音)
アバド2度目の「悲愴」。
情を押さえ、ひたすら楽譜に忠実に緻密に再現した名演奏です。
シカゴ響の強力な合奏力を背景に余裕の展開を見せた第3楽章。第1楽章展開部では、ホルンのシンコペーションの前にテンポを落とすといった古典的手法を見せながらも、その後ますます遅くなるという意外な展開を見せていました。(これはドラティ盤以来の解釈)
第4楽章の6小節めでもアフレタンド(急がせて)を忠実に守り急にテンポを早め、逆にその後のアンダンテを遅くするなど、一見他の演奏者と異なるようなテンポ運びを見せながら楽譜を見ると指定に忠実だった個所がいくつもあります。弦の歌わせ方もうまくて、第2楽章の流れるようなワルツや第1楽章280小節目のなめるような弦の表情など、実に独特なものです。


「ジョゼッペ・シノーポリ(1946〜2001)」
ヴェネチア生まれのシノーポリが、ベルリン・ドイツ・オペラで「アイーダ」の指揮中に心臓発作で倒れてからもう2年も経ってしまいました。デヴュー当時には、精神医学を修めたという斬新な解釈が大いに話題となりましたが、カルロス・クライバーの代役としてウィーンフィルの来日公演を振った頃から、日本での人気は下降気味だったような気がします。マーラーの「復活」と第8番の実演を聞いたことがありますが、「復活」が実に素晴らしい演奏で、今でもフィナーレの荘厳なオルガンの響きは耳の中に残っています。

・フィルハーモニア管弦楽団
(1989年 8月 ロンドン オール・セインツ教会 スタジオ録音)
アクセントをガッガッと強調した一種異様な悲愴でした。第1楽章の展開部以降、220小節めでの急ブレーキと280小節のクライマックスでのティンパニの猛烈なクレッシェンドの波状攻撃、健康的な表情をみせる第2楽章でも、中間部では、心臓の鼓動のようなティンパニの音が不安をかきたてます。第3楽章の最大の見せ場198小節直前では大ブレーキを見せ、その後長大なクレシェンド。オケは対向配置で第1、第2ヴァイオリンの掛け合いが第4楽章で見事な効果を上げていました。

「リッカルド・ムーティ(1941〜)」
ナポリ生まれのムーティは、1967年カンテルリ指揮者コンクール優勝。
その後は、フィルハーモニア管、フィラデルフィア管、スカラ座の音楽監督を歴任。
現在イタリア系の指揮者ではアバドと並び楽壇の中心的存在です。
「悲愴」はフィルハーモニア管とフィラデルフィア管とのスタジオ録音がありますが、
今回はフィラデルフィア管のライヴ録音を聴いてみました。
 フィルハーモニア管弦楽団   1979年  スタジオ録音
 フィラデルフィア管弦楽団   1980年  ライヴ録音
フィラデルフィア管弦楽団   1989年  スタジオ録音

・フィラデルフィア管弦楽団
(1980年 ロンドン ライヴ録音)
ANFという駅売りCDによる怪しげなライヴ。フィラデルフィア管のロンドン楽旅での
録音のようです。
テンポを大きく動かした劇的な「悲愴」。強弱にもあまりこだわらず、ピアニシモもメゾフォルテのように響きます。早いテンポで勢いもあり、第1楽章展開部では猛烈なスピードで駆け抜けるスポーツ的な快感を感じさせるスカッとした演奏です。200小節目のトロンボーンのコラールでは突然の大ブレーキ、最大の泣かせ所の284小節目では4拍目のヴァイオリンのテヌートをことさら強調し、ヨヨと泣き崩れます。第2楽章終盤では止まりそうなほどテンポを落とすかと思えば、壮麗に盛り上げ手に汗握る第3楽章では、楽章終了後に盛大な拍手が沸いていました。なお第1楽章の展開部直前はバスクラでなくファゴットを使用。
(2003.07.06)
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